三浦友理子
「看護職の学習をもっとポジティブなものとして捉えられないものでしょうか。」私が初めて質的研究を学術雑誌に投稿した際の査読コメントのひとつです。査読コメントへのお返事はどのようなものでも多くのエネルギーを必要としますが、この時は何を問われているのかが分からずに返答に窮してしまいました。研究の問いの適切性を問われているのか、意義へのご意見か、それともデータを反映した結果でないというご指摘か。そもそも最後の一言なので質問ではないのか??
査読してくださった先生には意図があったはずですが、私のような初学者には実践知がないことも手伝ってこれを適切に読み取ることができませんでした。経験が豊富な人とそうでない人とでは、しばしば効果的でないコミュニケーションが生じます。これは、対象となる領域での実践知がまだよく言語化されていなければなお生じやすい事象なのではないでしょうか。QUARIN-Jのホームページには、日本語版SRQR、質的研究方法を用いた学位論文評価基準が掲載されています。これらのガイドラインの内容を見ると、投稿者と査読者のコミュニケーションを円滑にする共通言語が示されているように思います。このような基準を挟んで両者が対話を行うことで、貴重な機会での不要なすれ違いを防ぐことにもつながるのではと考えます。
また、この度、国内の公表された看護学研究において、過去5年間にどのような質的研究方法論が採用されているのかを調査する機会を得ました。質的研究と一括りにすることがはばかられるほど、グラウンデッド・セオリー・アプローチ、現象学的アプローチ、内容分析など、理論的基盤から異なる様々な方法論が用いられていることについて改めて確認することができました。さらに、それぞれの方法論ごとに複数の流派(というのは不適切かもしれませんが)があり、質的研究を成し遂げるには、相当に多くの学習とエフォートが必要であることをひしひしと感じました。
質的研究に取り組む研究者は、自らが採用した方法論の哲学的基盤、周辺理論、実際の研究手順に対して相当に詳しくなることでしょう。一方で、研究の問いを探究した結果は、広く人々に公表されます。その方法論に対してあまり親しみのない研究者や実践家にも研究の信憑性や結果の内容を説明することになります。改めて前述したガイドラインの内容を確認すると、研究方法の記述に関してどのような視点で説明すれば信頼性や信憑性を説明できるのか、深い分析とは何か、どのように結果を記述すれば結果の魅力が伝わるのかなどへの視座が多く含まれています。このように、方法論の専門家以外の人にも研究を伝えるために自身の論文を洗練するツールとしても活用が可能だと考えます。
過剰に枠組みや基準を適用することは無思考を生み出す側面もありますが、投稿者と査読者をつなぐ、投稿者と読者をつなぐツールとして有効に活用することができる研究者でありたいと決意を新たにした次第です。