質的研究の査読を受けた経験

麻原きよみ

私は質的研究について、博士論文や修士論文を指導し、また雑誌への投稿論文の査読をすることは多いが、今回は自身の質的研究論文の査読を受けた経験を話してみたい。

私は1度rejectされた同じ雑誌に、再度投稿したことがある。通常、一度rejectされた雑誌には投稿せず、他の雑誌に投稿する場合がほとんどであるが。それはもちろん、1回目の査読で多くの学びがあったからであるが、大きな理由の一つは、この雑誌は他雑誌に比べ、本論文を読んでほしいもっとも多くの読者で構成されているからであり、このことが、研究実施そして論文公表の目的である「人々,学問,実践の利益」につながると考えたからである。そして、2つ目は、査読とは「著者,査読者,編集者が協働する」ことであり、著者である私と査読者、編集者が協働して、研究課題の学問的知見と質的研究評価基準を共有する機会になり、わずかであっても当該看護分野の質的研究実施・公表の推進につながればよいなと考えたからである。

再度投稿した論文への初回査読コメントは、文字や表現の修正といったマイナーなものを含め40以上あった。多くの適切、的確な査読コメントをいただき、論文を修正することができた。その一方で、例えば、「どのような言葉からサブカテゴリやカテゴリが生成されたのか表で示すこと」、「結果の記述と研究者の解釈が混在している。研究者の解釈は考察に記載すること」、「○○のデータ収集方法をメインに用いていないので、△△(方法論)とは言えない」といったコメントがあり、査読コメントをそのまま受け入れて修正できないと考えるものもあった。そこで、本研究の結果の記述の仕方に関する理由や、テーマやカテゴリとその関係性を示すこと自体が特定の現象に関する意味の説明(解釈)であることと考察の位置づけについて説明した。また、方法論はデータ収集の形態で規定されるのではなく、特定の現象を捉える視点(研究の問い)に基づくものであり、近年の当該方法論による研究動向についても追記して回答した。これらの査読コメントに対して、多くの文献を引用しながら、また文献調査を実施してその結果を示すなど、結果的に全コメントに対する回答の記載は34ページに及んだ。その後、査読者と数回のやり取りをするのだが、上記3つの回答については、概ね査読者に理解してもらえた。そして、査読に対する修正によって、私の論文はより洗練されたものになった。優れた査読者に感謝である。

私にとって、この投稿と査読プロセスはとても大変なものであったが貴重な経験であった。著者の立場をきちんと説明すれば査読者は理解してくれたし、査読プロセスにおける対話をとおして、よりよい論文をつくり、人々と学問、実践に貢献する共通の目的に向っていることを実感できた。また、このプロセスにおいて著者、査読者と編集者が質的研究の評価基準を共有することで、結果的に雑誌の特定分野の質的研究の発展につながると信じたい。この記事を書くにあたり、本萱間科研のメンバーが2017年に行った「質的研究論文のための査読者向けセミナー」で話す機会をいただいた「著者・査読者・編集者の義務やマナー」を思い出し、もう一度見返してみた(表)。

著者・査読者・編集者の義務やマナー

著者は,学術論文の基準に則り,研究目的,方法,結果,考察を明瞭に記載した論文を提出する
著者は,妥当な査読コメントに対して適切な修正を行なわなければならない
査読者は,科学的で誠実な態度で投稿論文に向き合う
査読者は,著者が設定した論文の概念的,方法論的枠組みを尊重する
査読者は,方法論等に関する自身の知識の限界を認識する
査読者は,偏った恣意的なコメントをしない
査読者は,指摘のみでなく改善案を示す
査読者は,期限内に査読を返す
編集者は,査読プロセスが倫理的に行われていることを監視し,よりよい査読のガイドラインを整備する

麻原きよみ(2018): 査読におけるマナー, 看護研究, 51(1), 12-13.
Davis, A.J., 小西恵美子, 江藤裕之(2002): 論文査読の倫理─査読者,著者,編集者の権利と義務. Quality Nursing, 8(1), 49-56.